新しい『Bootleg』が「CATALOG」になったワケ

来る11月24日(月・祝)に東京モノレール流通センター駅下車徒歩1分の東京流通センターで開催される「第19回文学フリマ」にBootlegの新刊を発表します。
Bootleg Catalog』

ブースは会場の2階に上がって奥側の出入り口正面の「カ-01」です。隣は「蒐集原人」新刊が出る予定のとみさわさん。他も映画評同人誌ブースが並んでおり、映画ファンも楽しい文学フリマですよ。


今回の「Bootleg」テーマは「あなたの知らない映画カタログ」。
ボクは小学生の頃から映画好きだったが、古い名作も掘り起こして見ていくような見方を始めたきっかけはムック本『このビデオを見ろ!』だ。今は手元に無くて実家の本の山のどこかに埋もれてしまっているが、あの本が無ければ今のような映画の見方をしていなかったし、今ほど面白く映画を見てはいなかっただろう。
1988年発売の『このビデオを見ろ!』(オールジャンルの第一弾、以降「アクション編」「ファンタジー・SF・ホラー編」「青春映画編」4冊刊行)編集はあの町山智浩大将。ニューシネマや60年代の名作などなどと、関連する過去作が見開き毎に紹介されている構成で、めくれどもめくれども、面白そうな映画が並んでおり、まだ集中力がすごくあった当時のボクは本を片手にレンタル屋をめぐり、片っぱしから見ていった。
Bootleg」も、そろそろあの憧れの構成にチャレンジしても良かろうと。しかし、そもそも誌面サイズが違うし、丸パクリというワケにもいかないしで、元を思い起こさせる要素は僅かになってしまったが足元くらいには近づけたかな?


取り上げる映画については石井輝男の名作『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』の扱われ方に着想を得た。周知の通り、少し前に海外レーベルからDVDがリリースされたが、それまでビデオリリースも無く「幻のカルト作」という位置づけだった。
だが、『奇形人間』はDVDリリース前から名画座や特集上映の人気プログラムで、石井輝男特集が催されればたいがい上映されていた。その一方で、他の石井輝男作品や、たとえば同じエログロ路線でも、ヤバ度でヒケをとらない牧口雄二の『徳川女刑罰絵巻 牛裂き刑』や『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』あたりは上映回数でも『奇形人間』より少なかった。
その『奇形人間』がようやく海外レーベルからソフトリリースされたワケだが、素材はオリジナルからのリマスター。リージョンはフリー。ジャケットはリバーシブルで、裏面には公開当時のポスターが全面にあしらわれている。映像特典に石井輝男生前のインタビューや、ポスターギャラリーに江戸川乱歩のバイオグラフィまで揃った「コレクターズ・エディション」的豪華さ。さらに、輸入盤であるのにもかかわらず、タワーレコードディスクユニオンでは店頭販売されたし、アマゾンでは今でも3千円を切る割引価格で新品が購入できる。なんだったら東映から正式リリースされている他の映画なんかよりもずっと良い待遇だ*1
『奇形人間』は昔から現在に至るまで、見る気があればそれなりに見ることの出来る、形骸化した「幻」だった。


逆に正式にリリースされた映画でもあまり取り上げられないまま、片隅に追いやられている映画もある。ビデオブームの頃に日本語字幕のついたソフトがリリースされた作品の中で、DVDリリースまで漕ぎつけたのは、評価が高く、出自の明確な大手会社からの作品が中心。それでも、ホラージャンルは優れた発掘人が権利を買い戻してリリースし、またそれを多少高くても買う人々がおり「市場」が確立されている。スターの出演や気の効いた造形のモンスターが出ていればなおのこと。しかし、いくら優れていてもコメディや地味なサスペンス・スリラーなどは売りづらいのか、放っておかれがちだ。


キチンとリリースされ、市場に充分出回っていても見過ごされる傑作も多い。ホラーやアクション映画など固定の根強いファンがいるジャンルでは、マイナー作や日本リリースが無くても名作は事あるごとに語り継がれるし、語り継ぐ場もある。逆にアート系作品やドキュメンタリー作品は情報自体が少なかったり間口が狭かったり、作品の存在そのものが知られていないことが多い。
同じように映画祭などで平日の真昼間に1回上映したきりで、公開に尽力するでもない映画関係者とヒマ人を喜ばせたあげく、単にその場に居合わせた人々の自慢のタネにしかなっていない映画もある。


もちろん日本では上映もリリースも無い傑作はチベットの晴れた夜空に瞬く星の数ほどある。逆に、見れないというダケで伝説化して持ち上げられた「幻の駄作」もある。


そういった作品を詳らかにしていこうというのが、今回の目的だ。
本誌を手に、検索をかけ、公開を逃さないようアンテナを張り、ソフトリリースを目ざとく見つけ、輸入盤しか無ければ新宿ビデオマーケットさんに相談し、それでも見つけられなければ全国の店舗や中古ソフト屋をめぐる旅に出るのもイイだろう。その時、手元にあると便利なガイドブックを目指して作ってみたのが『Bootleg CATALOG』だ。

*1:実際のところ、『恐怖奇形人間』というタイトルのソフトを東映の看板でリリースすればクレームが殺到するのは火を見るより明らかであったため、海外を迂回した“ほぼ正式リリース”であったのだろう